ドメイン駆動設計(DDD)とは
ドメイン駆動設計(Domain-Driven Design、以下DDD)は、ソフトウェア設計と開発において、業務の本質的な課題や問題解決に焦点を当てたアプローチです。開発チームとビジネスチームが共通の理解を持ち、複雑なビジネス要件をモデル化し、それを基にソフトウェアを構築します。
ドメイン駆動設計の基本概念
ドメインとは何か
「ドメイン」とは、対象とする業務領域や問題空間のことです。例えば、銀行業務、医療サービス、物流管理など、それぞれの業務やビジネスに特有の知識やルールが存在します。DDDでは、このドメインの深い理解が設計の出発点になります。
ユビキタス言語
DDDでは、開発チームとビジネスチームが共有する統一言語(ユビキタス言語)を定義します。この言語は、両者がビジネス課題を正確に共有し、誤解を防ぐための基盤となります。例として、銀行のシステム開発では「口座」「振込」「残高」という言葉が具体的なユビキタス言語になります。
エンティティとバリューオブジェクト
- エンティティは、一意に識別可能なオブジェクトを指します。例えば、銀行の「口座」はエンティティであり、一つ一つが異なる特性を持っています。
- バリューオブジェクトは、属性の集合で一意性は求められないオブジェクトです。例えば、「金額」や「住所」がこれに該当します。
集約とリポジトリ
- 集約は、関連するエンティティやバリューオブジェクトを一つのまとまりとして管理する単位です。集約の管理者となるエンティティを「集約ルート」と呼びます。
- リポジトリは、集約を永続化し、取得するためのインターフェースです。
ドメイン駆動設計の利点
業務と開発のギャップを解消
DDDは、ビジネスチームと開発チームが共通のゴールに向かう仕組みを提供します。その結果、業務要件が的確に反映されたシステムを構築できます。
複雑なシステムに対応
DDDは、複雑なビジネスルールや変更に柔軟に対応できる設計を目指しています。これにより、ビジネス環境の変化にも迅速に適応できます。
長期的なメンテナンス性の向上
DDDのモデルに基づいた設計は、システムの拡張や保守が容易であり、技術的負債の蓄積を抑える効果があります。
ドメイン駆動設計の実装プロセス
ドメインモデルの構築
業務エキスパートと協力して、ドメイン内の主要な概念を洗い出し、ユビキタス言語を基にモデル化します。このモデルは、コードの設計に直結します。
境界づけられたコンテキスト
DDDでは、システム全体を一つの巨大なモデルとして扱わず、境界づけられたコンテキスト(Bounded Context)ごとに分割して考えます。例えば、販売管理、在庫管理、顧客管理といったサブシステムを独立したコンテキストとして設計します。
モデルの実装と評価
構築したモデルをコードに落とし込み、ユニットテストやインテグレーションテストを行います。この段階で、モデルが現実の業務と合致しているかを評価し、必要に応じて改良を加えます。
ドメイン駆動設計の適用例
金融業界
複雑な金利計算や規制対応が必要なシステムに対して、DDDを活用することで業務要件に合致した堅牢なソフトウェアを構築します。
医療分野
患者情報の管理や診療プロセスの最適化など、分野特有のルールをモデル化する際にDDDが有効です。
Eコマース
在庫管理、注文処理、顧客管理といった複数のコンテキストを効率的に分離し、システムを設計できます。
ドメイン駆動設計を導入する際の注意点
- 初期コストが高い DDDは、業務理解やモデル構築に時間がかかります。初期段階では投資が必要です。
- 適用範囲の選定 シンプルな要件にはオーバーヘッドが大きいため、複雑な業務領域に限定して適用するのが一般的です。
- チームのスキルセット 開発チームにDDDの知識が必要なため、導入にはトレーニングや経験が重要です。