DSCR(Debt Service Coverage Ratio)とは
DSCR(Debt Service Coverage Ratio)は、企業が借入金の元利払いを適切に行える能力を測る指標です。具体的には、事業の収益力が負債の返済にどの程度寄与しているかを表します。銀行や金融機関が企業の融資判断を行う際に使用される、重要な財務指標の一つです。
DSCRの算出方法と基本式
DSCRは以下の式で計算されます。
DSCR = 営業キャッシュフロー ÷ 借入金元利払い額
- 営業キャッシュフロー(Operating Cash Flow): 事業活動から得られるキャッシュフローのことです。これには、企業が本業から得た収益や利益が含まれます。
- 借入金元利払い額: 企業が一定期間内に返済しなければならない借入金の元金と利息の合計です。
例えば、ある企業の営業キャッシュフローが10,000万円で、年間の借入金返済額が5,000万円の場合、DSCRは「10,000万円 ÷ 5,000万円 = 2.0」となります。この場合、事業収益は返済額の2倍あり、健全な財務状況であるといえます。
DSCRの目安と解釈
- 1.0以上: 営業キャッシュフローが借入金返済額を十分にカバーしており、返済能力が高いと評価されます。
- 1.0未満: 借入金返済額を事業収益だけでカバーできない状態を示します。この場合、他の資金源や借入が必要になる可能性があります。
金融機関や投資家は、DSCRが1.2以上であることを好む傾向があります。特に新規融資の際には、より高いDSCRが求められる場合があります。
DSCRが重要視される理由
- 借入金返済の確実性を示す
金融機関は、融資先が返済可能であるかどうかを評価するためにDSCRを利用します。これにより、返済遅延やデフォルトのリスクを低減できます。 - 財務健全性の指標として活用される
DSCRは、事業の収益力が適切に機能しているかを測る指標として、企業内部でも活用されます。特に、大型プロジェクトや投資の可否を検討する際に重要です。 - 事業計画の信頼性を高める
事業計画に基づく将来のキャッシュフロー予測が十分に信頼できることを示すために、DSCRが利用されます。これにより、外部からの資金調達が円滑に進む可能性が高まります。
DSCRを改善する方法
- 営業キャッシュフローを増加させる
収益力の向上やコスト削減により、営業キャッシュフローを増やすことが最も効果的な方法です。具体的には、商品の価格設定を見直したり、無駄な支出を削減することが挙げられます。 - 借入金の再構築
既存の借入金を低金利のものに借り換えることで、返済額を軽減することができます。また、返済期間を延長することで、1回あたりの返済負担を抑えることも可能です。 - 新規投資の抑制
キャッシュフローを圧迫する新規投資を見直し、事業の安定化に集中することも重要です。
DSCRの活用例
- プロジェクトファイナンス
プロジェクト単位での収益性を評価するために使用されます。例えば、インフラ事業や不動産開発などで、収益が借入金返済を十分に賄えるかを確認する際に活用されます。 - 企業買収(M&A)
買収対象企業の財務体質を評価する際にも使用されます。買収後の借入金返済の見通しが立つかを測る指標となります。 - 融資の与信管理
金融機関が融資を継続するか、あるいは条件を変更するかを判断するために、継続的にDSCRをモニタリングすることがあります。
図表の例
以下はDSCRの違いによる企業の返済能力を比較した表の例です。
企業名 | 営業キャッシュフロー (万円) | 借入金返済額 (万円) | DSCR | 評価 |
---|---|---|---|---|
A社 | 8,000 | 6,000 | 1.33 | 良好 |
B社 | 5,000 | 5,500 | 0.91 | 改善が必要 |
C社 | 12,000 | 8,000 | 1.50 | 優秀 |