EAC (Estimate at Completion)とは
EAC (Estimate at Completion)は、プロジェクト管理における重要な指標で、プロジェクトが完了するまでに必要となる総コストの予測値を指します。これは、進行中のプロジェクトの現状に基づいて計算され、計画時の予算との比較に役立ちます。プロジェクトの進捗状況やリソースの使用状況が変化する中で、EACはプロジェクト完了時点の財務的な透明性を提供します。
1. EACの基本的な役割
プロジェクトのコスト管理における重要性
EACは、プロジェクトの財務状況を把握するために利用されます。初期計画(BAC: Budget at Completion)と実際の進捗(AC: Actual Cost, EV: Earned Value)を比較しながら、今後のコストを見積もるための指標です。
これにより、プロジェクトマネージャーや経営層は以下を判断できます。
- 予算超過のリスク
- 必要な資源やリソースの再配分
- プロジェクトの実行可能性
2. EACの計算方法
主な計算式
EACの計算方法は複数ありますが、代表的な計算式は以下の通りです。
- 過去のパフォーマンスを基準にする場合
- EAC = BAC ÷ CPI
ここで、CPI(Cost Performance Index)は、コスト効率を表す指標です。CPI = EV ÷ AC。 - 適用例: プロジェクトがこれまでの進捗と同じ効率で進むと仮定。
- EAC = BAC ÷ CPI
- スケジュールの影響を考慮する場合
- EAC = AC + ((BAC – EV) ÷ (CPI × SPI))
SPI(Schedule Performance Index)は、スケジュール効率を示す指標です。SPI = EV ÷ PV(Planned Value)。 - 適用例: コストだけでなくスケジュールの遅延も影響する場合。
- EAC = AC + ((BAC – EV) ÷ (CPI × SPI))
- 将来のコストが新しい見積もりに依存する場合
- EAC = AC + ETC
ETC(Estimate to Complete)は、残りの作業の予測コストです。 - 適用例: 今後の条件が過去と異なる場合。
- EAC = AC + ETC
3. EACの活用例
実務でのシナリオ
以下のような場面でEACは特に有用です。
- 建設プロジェクト
工期が遅れているプロジェクトで、EACを使用して追加の予算がどの程度必要かを判断。 - ITシステム開発
初期段階で仕様変更が頻発した場合、新しいEACを計算して調整。 - 製造業のライン増設
リソース不足や予期せぬトラブルが生じた際、完了時の総コストを把握するために使用。
実際の計算例
あるプロジェクトの以下のデータが与えられた場合:
- BAC = 1000万円
- EV = 400万円
- AC = 500万円
- CPI = 0.8
EAC = BAC ÷ CPI = 1000万円 ÷ 0.8 = 1250万円
この結果、予算超過の可能性が明らかになります。
4. EACを活用するメリットと課題
メリット
- プロジェクト予算の透明性向上
現状を正確に把握することで、ステークホルダーとの合意形成がスムーズになります。 - 早期対応が可能
リスクを事前に発見し、適切な対策を講じることが可能です。
課題
- 計算の精度がデータに依存
EVやACが正確でなければ、EACの予測値も信頼性を欠く可能性があります。 - スケジュール管理との連携が必要
スケジュール遅延を無視した場合、予測が実態と大きく乖離することがあります。
5. EACを導入する際のポイント
1. データの収集と管理
- 進捗状況を正確に記録するため、専用ツールやダッシュボードを活用。
- 定期的なデータ更新を行うことで、常に最新の情報をもとにEACを計算。
2. チーム全体での共有
- EACの結果は、プロジェクトマネージャーだけでなく、関係者全員に共有する。
- 明確な行動計画を立て、リスク対応を迅速に行う。